2/25、A to Z cafe記者発表でのアーティスト・トーク全再録!
2月25日、A to Z cafeのオープンを記念し、記者発表が開催されました。
A to Z実行委員会からの「A to Z」展企画説明に続けて、カフェの会場プロデュースを行った奈良美智さんgrafの豊嶋秀樹さんによるトーク・ショウが行われました。
壮大なA to Z計画の発端と経緯、そして目指す方向性が存分に語られた充実の内容を再録いたします。

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息の合ったコラボレーションを続けている奈良美智(右)と豊嶋秀樹の両氏。


■A to Zへ至るまでの道のり

奈良美智
 このA toZ構想というのは、実はたいそうなコンセプトがあって始めたわけじゃなくて、ほんのたわいない話から始まったものなんです。
 最初に僕と豊嶋君が出会って、大阪のgrafのgmで<S.M.L.>っていう展覧会をしたんです。ただ展覧会をするんじゃなくて、なにか一緒にできないかというので、じゃあ、小屋を3つつくろうと。grafはもともと家具が有名だけど、隣に工房があって、材木でいろいろできるんですよ。で、こんな感じに大中小の小屋をつくりたいって、簡単な図を描いたんですね。「こんな感じです」って(笑)子供が描いたみたいに、ミリとかセンチとか関係ない、こんな感じっていう図をgrafに渡して、作業がはじまって、「奈良さんはこういう風に指示したけど、ここはこういうほうがいいんじゃないか」というようなやりとりがあって。それを聞いて、なるほどなあと。それはまったく自分が気づかなかったことで、自分のやりたいことにさらにプラスになることでした。そんな感じで、小屋ができあがって。それが一番最初の僕たちのコラボレーション。
 次に横浜美術館の写真のグループ展<ノンセクト・ラディカル>に招待されて、アフガニスタンで撮った写真を出して欲しいと言われたのですが、僕は本格的に写真を勉強したこともなくて、ずっと趣味でやってきて、それを見せることになってすごい不安を感じていました。じゃあ、自分が撮っていたときの状況を再現すればいいんだと思ったときに、そうだ、grafに小屋をつくってもらおうと。そのときも、廃材を使いました。それは中には入れないようにして、アフガニスタンの絨毯を敷いて、見る人は窓の外からしか見られない。それによって、僕はアフガニスタンで生まれ育ったわけではない、旅行者でしかない視線をつくりだそうとしたんです。
 その頃、台湾からも展覧会のオファーが来ていて、制作が間に合わずにいたので断ろうとしていたんですが、grafと組んでならできると思って・・・。

豊嶋秀樹
 それで話をしていた二週間後ぐらいに、実際に台湾に行って、材料は現地で手に入るものをどう上手く使ってつくるかと。台湾ではフォークリフトで荷物を運ぶ時に使うパレットの使い古されたのが、山のようにたまってる空き地があって、それを使って小屋をつくりました。

奈良
 その頃から現地のボランティアという人たちとの関わりも始まりました。そのときにはじめて、こういうのをずっとやっていきたいと思った。いままでいろんな美術館やギャラリーで展覧会をしてきましたけど、そこで関わるプロの人たちのなかには、本当にそれをやりたくて、僕の展覧会の仕事をしているのかというとそうじゃない人達もいる。でもこっちはその場所で一生懸命やるわけで、時間になると、「じゃあ」って帰っていく人たちを見て、なんか不思議な、変な気持ちになったんです。上手く言えないけど。それが、ボランティアの人達と会って、彼らは、本業があって、限られた時間しかできない。プロの人達より短い時間かもしれない。でも、無償でつくりあげたい。そういう台湾の人たちと出会って、その楽しみみたいな、同じやる気をもった人たちとつくり上げる、それを完成したときの喜びというのが、ただ単に、いい作品ができたとか、いいものができたとかじゃない、大きなものだった。それは他の人にはわからない、自分たちしかわからない、もしかしてちっぽけな世界だけで完結しているものかもしれない。でも、どうせいつか死んじゃうんだから、その前に、そういう思いをたくさんして死にたいなあって(笑)。
 もともと<S.M.L.>の時も、初めて出会った豊嶋君と、毎晩仕事が終わって、ビールを飲みながら、あーでもない、こーでもないって、全然美術と関係ないくだらない話をしていて、「AとかBとかZとかつくったらいいんじゃない?」って言ってたんですよ。それが台北あたりから、急に現実味をおびてきて、もしかしたらできるんじゃないかと思い始めた。それは、2002年に弘前でやった展覧会<I DON’T MIND, IF YOU FORGET ME.>のことがあったから。そのときもボランティアの人たちが参加してくれて、ほんとにやりたい人だけが集まってできた。これが組み合わさったら、ほんとにできるんじゃないかって、思ったんですよ。

■A to Z展の構想とは?

奈良
 構想自体は、はっきりとは決まってないです。ただ、自分の脳味噌の中の全てを出したい。A to Zという街並みをつくるんですが、それが自分の脳味噌の皺と皺の間の路地みたいになってて、あるところは本当に幼少の思い出で固められた、初期の作品が並んだり、あるいはそれをつくっていたときの環境があったり、LPレコードジャケットだけで壁が覆われた部屋とか、作品自体が生まれた環境を、言葉じゃなくて、もので見せたい。もちろん、小屋の大きさは全部違うだろうし、もしかしたら入口が小さいものもあるだろうし、檻みたいになってるものもあるだろうし、いろいろ考えています。そのなかで、自分が出会ってきた友達というか、アーティストたち、写真家や彫刻家とか、彼らの作品もそれぞれの僕の考える小屋みたいなものを、豊嶋君と話し合って、展示空間をつくっていきたい。すごく漠然としてて、絶対イメージしづらいと思う。でも、イメージしづらいから、何が出来るか、僕らは楽しみなんです。

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語る豊嶋氏。この後、奈良ファンとして知られる大物ハリウッド・スターが来場するという嬉しいハプニングが!!


豊嶋
 grafそのものがまず、コラボレーションから始まっていて、全員がものをつくるうえで興味をもてるものをつくっている。音楽も、デザインもアートも食べるものも好きだし、生活というものを楽しみたい、扱いたいんだ、ということに気づいたんです。アートというのは、僕のなかでは、生活から切り離された非日常のものというよりは、それをとおりぬけて、また日常がさらに楽しくなると言うか、豊かになる、そういう返ってくるような、円を描いているようなものとして受け止めたいなと思っているんですけど、A to Zは、まさにそういうものとしてあります。こういう小屋って、どこかに行ったらあるかもしれないし、似たやつもあるかもしれない。でも、実際に人がそこに入ったり、座ったりすることで、それぞれの人の経験とか、物語とか、記憶とかが、またわきあがってきて、新しい物語がそこから生まれてくるような、舞台みたいなイメージでつくっています。
 僕らがつくり終わった時点というのは、まだまだ住人のいない家みたいな、そういう感じなんですけど、だいたい出来上がるかなっていうところで奈良さんが入ってきて、実際ここのように、ばーと展示していく。そうするといきなり賑やかになってきて、その街に急に電気もついて、血が通ってくる。住人の色とか匂いとか出てくる。今までは、単体の家をつくっていって、そこに奈良さんの物語が流れたりするんですけど、A to Zの場合、もう少し大きくて、この家を建てようじゃなくて、街をつくろうという勢いなんで、もっともっといろんな物語が流れる場所になるんじゃないかなと予想します。それは当然、奈良さんの世界の物語は、主軸にはなってるかもしれないけど、そこにかかわってもらえるアーティストの物語であったり、grafの物語であったり、一緒に参加してもらったボランティア・スタッフたちの物語であったり、見に来てくれた人たちの物語であったり、そういういろんな人の物語を受け入れて作りだしていけるような街になるんじゃないかなというふうに予想しています。
 それも僕の視点から見ると、grafというのは大きな意味で環境だと言っているんですけど、A to Zという街に行ってみて、また自分の住んでいる街に、東京や大阪とか弘前とか、自分の日常生活に戻ったときにそれがまたより素敵に思えるような街になればいいなと思っています。
 あと、奈良さんとのコラボレーションについて。grafがひとつのコラボレーションみたいなものなので、仮にgraf村みたいなものがあったとして、そこでみんながものをつくっているんですけど、そこに奈良さんが来て一緒にものをつくろう、という感じです。最近コラボレーションみたいなものがすごく話題になっていますけど、僕たちは新しいことをやっている気がしなくて、どちらかといえば、古い、村社会のやり方みたいに思っています。今は都会のオフィスビルの中では細分化された仕事、分業がなされていると思うんですけど、田舎のほうだと、火事があったらみんなで火を消さないといけないし、台風がきたらみんなで守らないといけない。たぶん、生きていくための術みたいなものがあって、新しいことというよりも、昔からやってきたことを普通に今やってるというふうにしか思ってないです。

■A to Z cafeの空間づくり

豊嶋
 奈良さんと僕がとあるトークの席で、東京にカフェみたいな形で小屋ができたらいいなあと話していたら、それに興味をもってくれたravさんと一緒にカフェをやることになりました。基本的にお店として営業しています。参加していた横浜トリエンナーレ2005が終わった時期に設営が開始になったので、結構そこから材料をもらってきています。自分たちの小屋の材料じゃなくて、他の人たちの展示ブースで使っていた材料が大量のゴミになっていたので、それをはがしてもらってきたりとか。それと、ここのカフェの小屋は古びた小屋になっていますが、ある知人の方の実家が近所にあって、タイミングよく取り壊しになったので、自分たちで行って、解体して、窓ガラスとか通風口とか、外壁材とかもらってきてつくってます。人が本当に住んでいた家の材料をもらってきたんです。使っている場所は全然違うけれどね。
 カフェであるということと、美術館との違いは、僕的には違いは全然なくて、grafでレストランをつくったときに思ったことがあるんですけど、レストランもひとつの環境をつくって、パフォーマンスのようにシェフが料理をつくって、社会参加型みたいにお客さんがご飯を食べる。そこでいい会話をしたりとか、その時間を楽しむってことって、僕らがつくっている作品とすごい似通っているなあと思ったことがあった。カフェにあるほうがより生活に近いところで体験できるから、本当はこっちのほうがいいのかなと思ったり。
 お店で使われている家具も新品じゃありません。いろいろなところから実は入手していて、ひとつは奈良さんが今住んでいる家の近くにお店があって、そこがいい感じだったのでいくつか買ったりとか、grafの小屋を一緒に手伝ってもらっている青やんというメンバーの、昔の友達が実は家具屋をやっていて、そこからいくつか買ったり。昔僕が家具の修理のアルバイトをしたことがあるんですけど、そこから買ったものとか、ここの家の部品をもらいにいったとき、一緒に家具をもらってきたりとか、そのへんで拾ってきたりとか。grafの家具は少しだけありますが、中古の、ユーズドgrafをわざわざ集めました。結構それが大変だったんですが、方々で使われている家具を新しいのと交換してもらって、こっちにもってきました。

■それぞれにとってのA to Z

記者からの質問がありました。プロモーション映像中で出てきた「自分を見失わないように」という奈良さんの発言の意味について。

奈良
 人間って誰でもそうだと思うんですけど、心の中に、どうしてもこれだけはひけないっていう強いところと、どうしてもひかれちゃうっていう弱いところとふたつあると思うんですよ。たとえば今回、東北新社さんが記録映像を撮っていますが、いままでそういう依頼は全部断っていました。なぜかというと、自分の目的は被写体になることじゃないから。今回ひきうけたのは、これが共同体的なものだから。自分の仕事をする自分と、一人間としてテレビに出たいとか、メディアに載ってみたいという子供のような自分がいるんですよ。知名度が出るにつれて、取材がかならずあって、みんなきてくれる。作品が評価されるにつれて、それが普通みたいに感じられて、正直に言うと、こんなにがんばったのに記事が全然のらないなと思う自分もいる。でも最初のころは、ほんの5行くらい記事が載っただけで5冊くらい買っちゃう自分がいた。そういうことを忘れちゃいけないと。いつも普通に電車に乗って暮らしてるけど、普段の生活ができなくなったら、才能が枯れちゃうんじゃないか、っていう不安です。いつも豊嶋君とも最終的に酔っぱらってベロベロになって出る言葉は、初心。どんなに汚れていっても、初心さえもっていれば、ちょっと磨けばまた光るんじゃないか。自分で汚れを払いのけられなくても、払ってくれる友人やボランティアの人たちがいる。でも、一緒につくってる人たちに流されてもいけないと思うんですよ。感謝してるし、一緒につくりあげようと思っているけど、お願いしてやるものでもないし、ありがとうといってるけど、お互いにつくり上げるんだから、ありがとうというのはお互いに言う言葉で、きっと本当は、見にきた一般のオーディエンスがありがとうって言ってくれたら、きっと成功なんだろうな。・・・というような普通の意味です。
 ちなみに、横浜トリエンナーレ2005では、武蔵美の彫刻科の学生に頼んでボランティアを募集したんです。いろんな美大を回って募集しようとしたら、最初に訪ねた武蔵美で充分確保できました。そうそう、昔から大学の先生をやってほしいと言われていて、断ってたんだけれど、4月から1年間だけ、武蔵美の彫刻科をやることにしました。みんなへの感謝の気持ちを込めて。僕は絵を勉強した人間なので変な授業になると思うけど、メインは絵画っていう逃げ道があると思うとやれるかと思います。でも、A to Zは逃げ道がない。さっき豊嶋君が映像の中で「命がけで」って言ったけれど、僕はそこまで言わなくてよかった(笑)でも内心は、命がけで。
 A to Zが上手くいったら、あとは家財道具一式全部うっぱらって……あ、じつはこないだ、あまりgrafにお世話になってるなと思って、grafの家具を買ったんだった(笑)。でも、それぐらいの意気込みで、がんばります!

fin.
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by AtoZ_reporter | 2006-03-13 13:57 | ☆A to Z cafe情報


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